2010年12月5日日曜日

抗癌剤の副作用9 筋肉痛・関節痛

タキサン系抗がん剤(ドセタキセル、パクリタキセル)の特有の副作用として筋肉痛と関節痛があります。命に関わるような副作用ではありませんが、一度発症すると非常につらいようで、なかなか良い治療もないためやっかいです。症状は、タキサン投与後2-3日で発現し、数日でおさまると書いてある説明書もありますが、もっと長く続く場合もあります。この症状は毎クール出現することが多いようです。


原因:あまり詳しくはわかっていないようです。関節痛と筋肉痛が同じ機序によるものなのか不明ですし、しびれの原因とごちゃまぜになっている説明書もあります。一般にタキサン系のような微小管をターゲットにする抗がん剤は、その副作用として神経細胞の軸索の働きを傷害し、しびれや感覚障害や痛みなどの末梢神経障害の副作用を引き起こします。これが関節痛・筋肉痛の原因であるかのように書いているものもありますが、私が診ている限り、タキサンによる筋肉痛や関節痛は神経痛とは違うように感じます。
一方、筋肉内に多く含まれるL-グルタミンは筋肉の蛋白合成に強く関与していて、タキサン系抗がん剤使用時に筋肉内のL-グルタミンの消費が亢進し相対的に不足するとされています。これが筋肉痛の原因の一つかもしれません。関節痛の原因について明確に書かれている文献は私はまだ見たことがありません。

発症頻度:パクリタキセルの国内臨床試験成績によると、関節痛(40.3%)、筋肉痛(36.3%)と約3人に1人が発症していました(臨床試験によってはもっと少なく報告しているものもありますが、印象としてはこのくらいあると思います)。

治療:症状に合わせて消炎鎮痛剤(軽度では非ステロイド系鎮痛剤、中等度ではステロイド)を投与したり(薬剤投与後2-5日に予防投与するのも効果的)、芍薬甘草湯(薬剤投与2日前から7.5g/日を内服)もよく使用されますが、あまり効果がみられないことも多いようです。症状が強い場合(重度)では麻薬を用いることもあるようですが、私は今のところこの副作用に対して麻薬を投与したことはありません。ある施設では、L-グルタミン(胃薬のマーズレンSに含まれている)をパクリタキセルの翌日夕より内服開始し、1回量4g、1日5回で良好な結果が得られたと報告しています。もっと少ない量でも効果があったという報告もあります(1.5-30g/日)。これは筋肉痛に対してのみなのか、関節痛にも効いたのかについては不明です。

しびれやむくみとともに非常にわずらわしい副作用ですが、これらの副作用は通常、治療が終了すればおさまってきます。後遺症として残ることはほとんどありませんので、あまり心配しすぎないことも大切なことです。

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